環境・計画論

地域の建築士として

私たちの暮す南信州は、面積の86%が森林地帯の典型的な中山間地域です。南アルプスと中央アルプスに囲まれ、一次産業を主体とした産業構造の中、牧歌的な風景を継承してきました。

 

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足元から天井までガラス張りのガラス建築が主流の高層建築群。
ダブルスキンにして空調負荷は多大。

私たちの創作するものは、地域に培われた風土・文化・伝統を強く意識し、素材ひとつにしても「地域に根づいた土に帰す素材」を主題に創出しています。。また地域産業圏内での「循環型経済での物づくり」に取り組み、地産地消のごとく地場産業の発展をめざし奮闘しています。

私たちの名刺には「風土と建築」とロゴが入っていますが、創出する物が地域の方々に愛され同化し、個性ある南信州の建築・文化として継承されればと願っています。日々の創作活動における想い、工法へのこだわりの基点を、環境意識の側面から述べてみたいと思います。

地球環境と建築とのかかわり

現代における最重要課題である地球環境問題は、我々人類の生産活動の結果として引き起こされたものであり、自然エネルギーの大量消費・大量廃棄が、地球の持っている浄化能力を超えてしまったためと思われます。

ここで私たちの携わる建築産業に触れれば、建築産業は日本の国民総生産(GDP)の20%近くを占める巨大産業です。そして成果物である建築は、他産業製品よりも圧倒的に巨大であり、エネルギー大量消費の上に成立しています。

巨大な建築を構成する基本素材は、鉄・セメント・ガラスであり、最近では多量のガラスを使用した「ガラス建築」が目につきます。これらの建築素材は原鉱石に大量の熱処理を加えて作り出される加工製品です。

竣工すれば空調・照明・給湯と常時エネルギーを投入し、居住環境を維持しなければなりません。そしてライフ・サイクル終末期の解体・除去段階で、多量の廃棄物を生み出すわけです。

地球環境と建築とのかかわり

また建築関連の我が国における炭素発生量は、資材生産において13%、建築現場で1%、運搬で3.5%、建築運用時が16.5%で合計34%にもなります。これに波及的に引き起こされるものを加えると、国全体炭素発生量の45%が建築産業に関わっている事になります。

熱帯雨林とコンクリート打放建築

地球環境問題の一つに「熱帯雨林の減少」があります。熱帯雨林は発展途上国ゾーンにあり、農地拡大や牧畜増加、炊事用薪炭量増加等によって森林が急速に減少しています。 熱帯雨林は多様な生物の宝庫であり、地球の気候システムに大きな影響を与えているので、その減少は地球規模の大問題と思われます。

ご承知の様にコンクリート打設時には合板を使用しますが、これが殆んど熱帯雨林材より出来ています。特に化粧打放の時には新材ばかりを現場で大量に使用しているのです。

型枠合板に使用する材料は特殊なフタバガキ科の大木であり、東南アジアの熱帯雨林にしか存在せず、再生も困難な樹種であり、今後10余年で地球上から無くなるだろうと言われています。 熱帯雨林の木材はまず産出国で燃料や商業用に消費され輸出量は3~4%ですが、日本が最大の輸入国であり用途の大半が合板であるわけです。

これらの事情を考慮すれば、きれいに化粧打ちされた巨大なコンクリートの建築物を単に空間の美しさ・デザイン性だけで語ることは出来ないと思われます。

 

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自然換気をビル内に取りいれた最近のオフィスビル断面模式図。
前川・丹下・谷口等、昭和の建築家の方々の庁舎建築窓部は「開閉式」であり、
自然通風・換気を意識しながら執務が出来た。

木造建築と炭素排出量

地球環境問題の中で最も解決が困難とされているのが地球温暖化です。
地球の保温性を決めている温室効果ガスの濃度が増え、地球の保温性が高まって気温が上昇するものですが、最大の原因物質は化石燃料を燃焼する時に発生する炭酸ガスです。 建設業でみれば、鉄鋼やセメント等の建設資材生産過程で、日本全体の炭酸ガス排出量の12.8%を発生しています。(前、円グラフ参照)

また建築の構造種別で炭素発生量を比べてみると、建築物が竣工するまでに排出する炭素量は鉄鋼・セメント・運輸の三者が中心である事がわかります。一方、木造建築物では多量に木材を使用するが、素材加工に伴う炭素排出量は少なく、結果として建物全体の炭素排出量が少ないのがわかります。

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また、木材自身は乾燥重量の半分が炭素であり、これは光合成によって大気中の炭酸ガスを木材に固定した結果です。 木材は加工時にそれほどエネルギーを要せず、炭酸ガス排出量も少なく、光合成で固定されている効果を加味すると、全体としては炭素吸収素材となります。

鉄鋼のように素材製造時に炭酸ガスを大量排出するのと比べれば、木造は圧倒的に炭素発生量削減に有利な建築物と言えます。このような結果から考えれば、木造建築物を見直して積極的に採用を計る事がいかに環境に対しての順応的な手法かと思われます。

炭素発生量

原木丸太材を構造梁に丸挽きしている

木材を人工乾燥させる乾燥炉

山林から伐採された丸太材がストックされている

乾燥材を本実板に加工している

材木加工工場では、電気モーターのみが稼働している。
多量な電気エネルギーを消費しない、究極のエコ・システムでの生産工程といえる。
【南信州製材工場・加工場風景】

国産の木材使用とエコ・システム

現在日本の国土面積は3779万haで、その内森林面積は2512万haであり、国土の66%は森林となっています。 これはフィンランド・スウェーデンにつぎ世界3番目の森林率であり、ちなみに世界平均は約30%です。

森は人にとって生きていく上で最も大切な、空気と水と食物を生み出してくれます。 木は二酸化炭素で汚れた空気を光合成によって浄化し、生き物に酸素を与えてくれます。 雨水は木の根元に残り腐葉土をつくり、栄養分や微生物を含んだ豊かな水となり、田や畑を潤し、海に流れて海草や魚の餌を豊かにします。

森林の持っている大気保全機能、水資源涵養機能、土.砂崩壊防止機能、野生鳥獣保護機能等を経済性に置き換えれば、75兆円に相当するといわれます。 しかし、日本の森林は、輸入材の伸長により今や手づかずの荒涼化した状態です。

日本の木材消費量に占める国産材の占有率は、18%まで減少しています。

 

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現在日本の山林でストックされている炭素の量は、14億トンと推定され、年間1,600万トン相当の炭素換算率の木材が居住用に供されます。一方輸入材として年間6,400万トンが国内の住居用に使われ、合計8,000万トン相当の木材が日本の居住用として使われています。

国内では年間120万戸の住宅が建設され、日本全体の木造住宅のストック量は、2,400万戸と推定され、これは20年分に相当し、4.8億トンの住居における炭素のストック量になります。

日本の全住戸数は4,000万戸位であるから、炭素換算ストックは、木造住宅の2,400万位相当します。日本の山林が蓄える炭素のストック量5,400万トンに相当するわけで、もう少しエネルギー消費を節約すれば、日本の山林のCO2吸収と住戸のCO2発生のリサイクルが成立する。

CO2発生のリサイクル

 

外国からの輸入6,400万トンをなくした時、日本の住居の償却年数を40年間とすれば、日本における炭酸ガスの発生量と山林における炭酸ガスのストック量もバランスが良いのです。ちなみに、世界の木材ストック量は273億トン、炭素の年間固定量は8.4億トンと推定され、33年の周期で木材を利用するとすれば、建築に関するエコシステムが成立します。

日本における木造建築の推進と山林の人工林の育成を行い、住居エネルギーの消費もバイオ・エネルギーへと変換すれば、建築に関するエコシステムが成立する訳です。

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次世代を担う「新木造建築」

かぐらの湯

日本の森林の40%が人工林であり、樹種もほとんどが針葉樹です。人工林は間伐、下草刈等の手入れをしないと成長しません。

30年~50年で収穫期を迎える国産材のヒノキ・スギ・カラマツ等を育成しながらの伐採は、この様なエコ・システムを成立させる為に、大変重要な産業です。
森林の持つ防災機能、水質浄化面と合わせて、このようなエコシステムを成立させるために、国産材の木材を活用した新たな日本の建築計画が必要です。

近代建築の三大要素が 「鉄・ガラス・コンクリート」 といわれてましたが、今やCO2発生の主要因になっているわけです。

近年木質ムク材の不燃化も可能となり、法的規制もクリアーしながら多用途に木質材を使用できる様になりました。 地球環境面から、次世代を見据えた「新木造建築」に建築界全体で取り組み、CO2削減に努力すべきだと思っています

新木造建築

くらし学校『ダイダラボッチ・・・3年間の設置活動を終えて

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泰阜村「だいだらぼっち」とは?

最近の私たちの創作活動の中で、物づくりにおける「自然界とすまい」という観点で、大変考えさせられた事業が、都会の子供達の山村留学施設であるくらしの学校・だいだらぼっち」でした。 「だいらだぼっち」とは巨大お化けの事で、「自然界と人間」を主題にアニメ作家として活動している、宮崎駿監督の「もののけ姫」にも出てきます。

「くらしの学校」の活動拠点である南信州泰阜村は、人口2,200人の山村であり、地形条件により信号もなく国道も走らない、山村の魅力がそのまま息づいている里山の小さな村です。山村の生活文化を色濃く残し、南信州の深い渓谷に囲まれたフィールドは、まさに秘境という言葉がふさわしい自然の宝庫です。

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主たる街道・河川がないままに、山並みの地形なりに集落が散在する「泰阜村風景」南信州でも独自の原風景を醸しだす。

「くらしの学校」を運営しているNPO法人「グリーンウッド」の皆さんが、この地で都会の子供達に山村生活の中での「くらしと学び」をテーマに、「山村留学」を始めたのは、20年前のことでした。当時としてはまだ先駆的な発想であり、大変なご苦労の中で、自分たちの「山村留学」に対する強い想いを貫き通された結果が、今日の姿であると思われます。

初めて私共がこの地を訪れたのは、12年前の真夏の炎天下の最中であり、傾斜地を登りつめた里山の平坦地に、いまにも壊れそうな廃校になった木造校舎らしき建物が数棟建っている独自の風景でした。

建物の周囲には、薪等が山高く積まれており、自転車等が散乱し、大きな犬が何匹か繋がれている、のどかな風景を見ながら「一体どんな人達が、何をしているのかな」と困惑いたしました。
日常的な息つく間もない風景と違い、里山の中にそこだけはゆったりとした、独自のユッタリズムの空間が流れているのを感じたのです。

やがて、都会の子供達がランドセルを背負い学校から帰り、皆で薪を割ったり元気で飛び廻るのを見て、諸事情がだんだん理解出来てきました。

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当時の母屋は廃校を移築し、自分たちで組み上げた簡素な建物で、屋根はカラー鉄板、開口部は再利用の木製建具、腰部は丸太材を積み上げた程度で、快適な居住性とは全く無縁の住まいでした。
トイレは汲み取り式で、宿泊棟共々別棟で建っていました。 陶芸の先生が二人いらっしゃいましたが、その工房も全くの手作りであり、隙間風どころか吹きさらしに近い工房空間でした。 各棟は渡り廊下もなく、トイレ・風呂に行くにも、雨傘をさしていく状態でした。

 

生態系の中の創造物としての建築

やがて東海沖地震の指定地域でもあり、耐震性を考慮しての建て替えとなり、陶芸工房の「あんじゃね館」から始まり、「浴室棟」の完成迄5年の歳月を要する建て替え事業となった訳です。

母屋の建て替え時に各グループ毎にワークショップを開くと、子供らしく元気で「生ゴミを蓄積すると、熱が出るが、鉄棒を使って利用できないか」などと大人の予想外の発想が盛り沢山で驚かされるのでした・・・・・

「ボロッチイままがいい」 「このままでいい」という意見が大半で、床下 ・小屋裏の探求的な空間、屋根に上がって遊び廻る動作等、建物全てが子供達にとっては、「住まい」であり 「遊具」なのです。 大きな広間をドタバタ飛び回り、皆で共同生活が出来るのが何よりも楽しいのです。
夏の暑さ、冬の隙間風、屋根のトダバタ音など子供には全く関係なく、素朴なうす暗い裸電球の住まいがすごく快適なんです。

このように、絶大的に愛される手づくりの廃校利用の母屋のイメージをどう引き継ぐか・・・・・思考錯誤を繰り返すうちに、いつしか里山の中に植物のように自然に根をおろす住まいをイメージしていました。「生態系の中の一つの創造物」としての住まいを目指した訳です。

少し視野を広げれば、世界中に生活と住環境を素直に原点で繋いだ住まいは、遊牧民のパオしかり、手づくりの日干しレンガの建物等々、共通しているのは、住まいとしての機能が、自然界と「大変スリム化された状態で手をつなぎ、不変の大変美しいデザインをしているという事」であり、いつしかそんな住まいをイメージしていました。

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土に帰す素材・・・アフリカ・タンベルコ族の「生態系の中の創造物」
としての住まい 自然界の中の大変美しい不変のデザインといえる。

少しづつブロック毎の年月を掛けた気の長い設計作業でした。 母屋にそびえ立つ4本の枝付ヒノキ丸太は、子供達も一緒に山から切り出した材であり、木材・石・土等の素材も地域で賄ったものです。 タイル貼り等、出来る限り子供達が作業したもので、外壁の仕上げと共に驚くべき感性を発揮していました。

 

次世代のあるべきライフ・スタイルとは

一期工事の陶芸棟「あんじゃね館」の完成から早5年、環境意識の高い親を持つ子供達が今年も何人も入村し、地元の小・中学校に通いながら人間の原点とでも言うべき様々な体験、たくましたを身に着けながら、村の一員として生活していきます。

きれいな空気の中野山を駆け巡り、川で泳ぎ、暗闇の中で、薪で火を起こし星空を見上げる ・・・・ 近くの山から採取した木の皮をむき、削り土を捏ねて床・壁を塗り、薪きストーブによって暖を取る・・・・風呂は当番制で五右衛門風呂を沸かし、食事は皆で調理し一緒に食べる・・・・

自然界と人間、住まいとは、暮らしとは ,地球規模で幾度となく環境意識向上が問われても、文明という名のもとに春夏秋冬の移ろいを忘れた人工環境の住まいの中で、大量消費型生活を繰り返しているのが現実です。

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そして、自然界に素直に順応し、静かに暮らす人々・・・

草原地帯の遊牧民しかり農業生産で自給自足を送る人々等・・・・・彼らの生活が地球温暖化によって、危惧に立たされているのも悲しい差し迫った現実です。

自然界の結晶であるべき住まい、次世代のあるべきライフスタイルはと考える時、山村留学の都会の子供達が里山環境ならではのリサイクルシステムの中で生活し、あるべき「何か」を「心のお土産」として帰って行く ・・・・・ そんな事を考える時、山深き泰阜の「くらしの学校」の果たしてしている役割がとても大きく感じられます。

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