長野県飯田市松尾地区(旧松尾村)は、飯田市座光寺地区と共に、かつては養蚕業盛業地であり、ピーク時には、長野県全体の25%を占める収繭量でした。
松尾地区は農振地区除外と共に大きく変貌しかつての農村原風景は消減し、小区画化された住宅街へと姿を変えました。
その中で今回のE邸は、広大な敷地の中に養蚕業から酪農への変遷、木造トラス構造の工場・店舗跡を残し、明治以降の産業の変遷を伝える大変貴重なお宅です。
10年来、新築か再生か迷った上の決断であり、再生により全く新しい空間構成の「現代民家」へと蘇りました。
民家の再生
明治中期「養蚕民家」Ez邸
再生後
屋根はタル木の耐久性を考慮し軒先を金属葺とし、主屋根は粘土瓦で
葺き替えました。
新たに追加した桧材による、ガッシリした匠の技によるバルコニーが目を
引き付けます。
玄関の竪格子戸・細めの親子面格子・細竹の格子等、外部廻りは繊細に仕上
げています。
新たに軒桁は入替えました。
軒の深い和風空間が日差しをカットし風雨から
建物を守ります。
再生後
朝日を浴びた南面からの姿です。
外装は漆喰に少し着色を試みています。
再生後
再生後は、下屋部の寄せ棟形状を、内部空間なりに切妻形状に組み替えました。
ヌレ縁を介した深い軒先空間が特徴です。
再生後
良質な造作材を匠の技により、旧宅の面影がないほど「現代民家」として蘇
りました。
タタミ10帖・広縁・食堂が再生により、約14帖の吹抜状の食堂・居間に生
まれ変わりました。
右側の濃赤に塗られたのは、新たに入替えたヒノキ200角の通し柱です。
お施主様も設計者自身も驚く程の、伝統と現時代が融合した斬新な「現代
和風」の空間に蘇りました。
左側上部の障子越のトップライトにより、
上昇感を醸し出しています。正面の梁は、
新たに高さを上げ入替えた梁成300のヒノキ
梁です。
台所面から吹抜部の食堂・居間を見たアングルです。
左側に、総ヒノキ造りの緩やかな階段が見えます。
薪ストーブ設置面から、台所部を見た形態です。
天井の低かった既存の和室10帖は、45cm間隔に入った床梁により、現代
モジュール仕様に上げました。
北面の吹抜け空間と一体化し、夏期は涼風が通り抜けます。
玄関も2階部を撤去し、吹抜空間に生まれ変わりました。
左面のキャットウォークの床梁等により、補強されています。
階段を登りきった踊り場には、障子越しの柔らかな光が降り注ぎます。
左側の吹抜を見渡しながらの大変気持ちの良い空間です。
朝日が面格子越しにサンサンと差込む吹抜空間の玄関です。
正面のキャットウォーク床梁と、手前の黒く塗られた床梁により開口補強し
ています。正面物入の細桟の格子戸は再使用品です。
和室床下の開口により、居間吹抜との通風を確保しています。
右側洋室とは、ワンルーム化されます。
黒い小屋梁をアラワシた2階和室です。
左面開口より屋根面へと出られます。
建設時からの鬼瓦は取り外し、庭にオブジェとして並置しま
した。
明治23年(1890)の棟札が発見され、軽くクリーニングを
施してみました。
後施主さん所有の枝付丸太を磨き上げ、玄関脇に設置したら
大変好評です。
玄関ホールから引込戸を介し、和室10帖を見たところです。
鴨居に取り付けられた家紋が、E邸の伝統を醸し出しています。
トップライトの効能は、晴天時より雲・雨天の方がより効果
的であり、柔らかな光が強調されます。
建具は可能な限り再使用しています。
襖戸の格子を入替えれば、随分イメージが変わります。
仏壇置場と床の間を新たにセットした和室10帖です。
左側の舞良戸、右側の板襖とも再使用品です。
小型ながら14,000kcalを発する国産薪ストーブです。
これ1台でほぼ1・2階の暖房が賄えます。
便所も改修し、カシュー塗カウンターの上に御施主様の選ん
だ手書きの信楽焼のボールが乗っています。
モザイクタイル貼りの洗濯機置き場には、洗濯流しもセット
しました。
H21年11月竣工(飯田市)
120年を経過した建物妻面です。
下屋部は、入母屋に改修され大きく変貌します。
養蚕建築には珍しく、当時から2階部もタタ
ミ敷きでした。建築時には、主屋の西面に巨
大な養蚕長屋があり、主屋は二次的に養蚕業
に使用された形跡が見受けられます。
奥の屋根にブルーシートを覆った棟が、今回
の再生対象の主屋です。手間は畜舎小屋跡です。
敷地内に残されている牛乳工場跡です。
巨大なトラス小屋組が、そのまま残されています。
解体前の家具を搬出後の玄関廻りです。
貴重な細桟の格子戸は再使用します。
吹抜空間へと改修さます。
1階和室10帖です。天井は高天井となり、
正面は床の間・仏壇置場へと改修されます。
1階南北方向の和室10帖続き間です。
奥の10帖間が吹抜空間の居間へと変貌します。
手前の和室10帖間は吹抜空間の居間へ、
奥の和室8帖は壁で区切られ改修されます。
和室8帖と6帖の続き間です。
手前は押入・床付の8帖間に、奥の部屋は勾配
天井の書庫・カウンターのセットされた書斎
部屋に改修されます。
勾配天井の書斎部屋に改修される前の
和室6帖です。
さらされていた縁側の舞良戸です。
補修・塗装し、床脇の建具として
蘇ります。
和室から和室10帖を見た状態です。左側の
大黒柱は磨き込まれ、右側の柱は、200角の
ヒノキ通し柱に入替え、梁は高さを確保し、
ヒノキ300梁に入替えられます。
食堂から玄関部を見た状態です。
食堂は吹抜になり、格子戸部は、玄関吹抜と
の区画壁となり、手前に総ヒノキ造の階段が
設置されます。
改修前の台所です。
手前にL型の対面キッチンを配し、窓面の作業
カウンターと引込戸を介した壁により区画され
ます。
2階和室8帖です。床が撤去され、食堂上部の
吹抜空間となります。
手前の赤松の丸太梁は、意匠的に露出します。