民家の再生
明治後期「養蚕民家」 Ha邸
再生前
屋根葺き替え以外、百年来のままの旧宅
再生後
屋根の吹き替え・高断熱化・構造補強等により、「現代民家」として蘇えりました。
新たに設けた越屋根には、換気機能も持たせてあります。
左面の白壁部が「地域医療」の拠点となる「診療部」です。
再生前
開口部の障子戸と雨戸の組合せも、当時のままです。
再生後
古材は古材らしく、新材の「桧材」は新材らしくクリアー仕上です。
意図的に古材と新材を対比させ、「現代民家」らしさを表現したものです。
再生前
三本引き込み戸と障子戸による当時の玄関。
再生後
正面の彫りの深い玄関形状はそのままです。 何とか潜り戸と引 き込み
戸を再生しようと悩み抜きましたが、やはり 使い勝手もよく気 密性の
ある「幅広の引き違い戸」にしました。
雑木林の新緑風景に溶け込む「再生民家」です。 自然の織り成す美しい
色彩の中、地域のシンボル的な存在として蘇えりました。
玄関脇の石臼による手洗い鉢。
これから仕上げています。
当主のストックしていた変木・竹等をあ
しらった開口部・出入口廻りです。 少し
遊び心のある「数奇屋テイスト」を 加味
してみました。
アプローチ面を印象づける多様な面格子類です。 民家のわりには、細めで繊細な
「親子縦格子」「竹格子」と、力強い「骨太の デッキ材」が対比し、バランスの
取れた緊張感のある表情を醸し出しています。
旧宅の貴重な木舞下地の土壁はそのまま再利用し、
断熱 材を入れた上に左官仕上としています。
納まり上、付柱 ・付梁も所々に使用しています。
日差しを和らげる民家的な深い「軒先空間」
です。建設時より100余年来、高温多湿の風
土の中「住まい」を風雨より凌ぎ、過ごし易
い「夏のくらし」を提供してきました。
再生前 玄関
再生後 玄関を入るとこの二層分の吹き抜けホール
が迎えてくれます。 床梁はそのまま残し、新材に
て床部を増設したので、より強固 になっています。
約15帖もある大ボリュ-ムの吹抜空間です。
玄関戸の上はメンテナンスの為のキャットウォークで 開口部を設けたので、 明
るい日差しが小屋組を通して降り注ぎます。
再生前 居間・御両親寝室
再生後
約19帖の「2列格子型モジュール」を生かした居間・食堂で、 先人の
ライフスタイルをそのまま引き継いでいます。台所とは対面カウンター
で繋がります。
家具も入り「新生活」が始まりました。
両面の引き込み障子戸により あの暗かった旧宅の和室の印象は微塵も
感じられません。 樹林と室内が一体化しています。
古材は古材らしく、新材は新材らしく…、コントラストのあるインテ
リアであり、障子は 「町屋風」に竪桟とし黒に着色しました。 大変
上品で「現代民家」らしいインテリアになりました。
再生前 主寝室
再生後
やはり「2列格子型モジュール」をそのまま引き継ぐ主寝室です。 西面
に2間半のクロークを設けても14帖もあります。 タタミ・コーナー等
設けず余裕のある空間をフレキシブルに使用しています。
障子戸を開け、タタミ・コーナーから広縁を見た状態です。 奥さんの
家事コーナーは木工事で造り付けてもらいました。細めの面格子を通し、
柔らかな光が入ってきます。
家事コーナーからタタミコーナーを見た状態です。広縁・和室のモジュ
ールは当時の状態を引き継いでいます。
延々と南北に続く1間巾の広縁です。吹抜部もキャットウォークで繋が
り、 通しで見渡せば11間余りもの歩行距離があります。
再生前 小屋裏コーナー
再生後
広大な小屋裏コーナーです。天井は化粧石膏ボード、床・
壁面は 合板素地のローコスト仕上げです。 屋根面には、
採光・換気の為の木製トップライトを設け、正面には 換気
の為の小窓が見えます。
デッキ越にアプローチ面を視た「新緑風景」… 今や貴重となった、
美しい里山風景の中に溶け込む「すまい」を感じさせてくれる風景です。
大きな開口部から、里山を通り抜ける新鮮な風と風景が飛び込んでき
ます。
ちょっと趣味的な「ゲストルーム」を提案してみました。
6帖と小ぶり な部屋で、お茶をたてたり「静的空間」として利用されそ
うです。 正面の円窓を明けると、玄関の吹抜ホールへと繋がります。
総ヒノキ造りの出桁階段です。二人の大工さんによる大変な力作で、
段板・手スリの 感触等、使い込む程じっくりと馴染んできます。これ
は集成材等の「製品」では絶対に体感出来ない事なのです。
階段ホールに設けた水廻りです。
スス竹をあしらった 開口枠の奥に、トイレの入口が見えます。
式台は珍しい「ハナノキ」を使用…上框はケヤキ材の再
利用で、 棟梁さんが現場で、R状に加工したものです。
大変な労力を要した力作です。
杉の隔板は「うずくり仕上」・壁面は左官の「クシ刷き
仕上」により テクスチュアーを出しています。
コバ付きのムク板を使ったカウンター・細竹とヒノキ板
を組み合わせた ベンチ等を随所に設けてみました。
使い勝手の良い、幅広の「対面カウンター」キッチンです。
キッチンセットとは適度に段差を設け、流し元も隠れ配膳
もし易い、 流行的でないキッチン形式です。
洗面脱衣をプランニングする時、外部に面する事が必須条件と考えます。
調湿性の高い杉板材等を使いながら、採光の不足分は「天空光」により補っています。
かわいらしいブドウ柄の入った、陶器製手洗いボールです。
オーダーで焼いてもらいました。背面のモザイクタイルは、
工場にて デザイン・ネット加工してきました。
調湿・消臭性の高い素材を多用した便所廻りです。
手すり・カウンター類も入念にセットしてあります。
障子の組子のデザインも、部屋のイメージに合わせ変化を持たせてあります。
再利用した障子戸も、時の流れを感じさせ何とも言えない味わいを醸しだしています。
板襖に書かれた見事な絵画です。墨で書かれた物も沢山
残され、当家の伝統・格式を今更ながら感じます。
軽く中性洗剤でふき取っただけなので、上手くクリーニ
ングすれば、 鮮やかな色彩が蘇ると思われます。
古民家にマッチする照明器具がなかなか無く、今回も手
造りで製作しました。現場で木工の方に組んでもらい、
電気工事店さんに取り付けてもらいました。ローコスト
ながら「一品物」です。
私の大好きな「ホワイトボール」照明です。照明の原点
的な美しさが 「アキ」を感じません。
下がり壁の変木は当家のストック品です。
どこを見渡しても、尺5寸以上の「差し鴨居」がぐるり
と廻っています。 現在では到底入手出来ない「地ツガ」
が使われています。
こんな物がさりげなく、無造作に並べてあります。もち
ろん普段は 厳重に保管されています。大量消費文明の中
「本当の豊かさとは何か」。日々限られた時間の中で動き
廻る中、先人の残した什器類が語りかけ ている様に感じ
られます。
明治後期、養蚕総二階建古民家の再生
雄大な天龍川の流れが造り出した河岸段丘と、彫りの深い伊那山脈に囲
まれた南信州は、谷合い毎に風土に培われた独自の文化を継承してきま
した。山沿いに細い山道が湾曲し、傾斜なりに「農村原風景」が広がる
そんな山間地に今回の古民家は存在します。
法面下にある湧水をたたえる「蓮池」
住居の北面には、削りとられた岩肌がま近に迫りますが、山桜 ・ 紅葉
等で覆われ紅葉時にはまさしく自然の「色彩劇場」と化し、当主 の一番
心安らぐ場でもあります。 石の入手が困難当地 において貴重 な採石場
であり、建築素材としてふんだんに使わ れています。 山肌 面は貴重な
湧水の源でもあり、百年以上に渡り生活用水として使用されてきました。
外構工事で発掘された先人の残した「湧水池」
今回外構工事により、当時の池も発掘され先人の自然の恵み を楽しむ
「イキ」なライフスタイルが想像できます。アプロ ーチ面左面の高丘
と住居前面には湧水を湛える蓮池があり、 前面の蓮池は一反を超える
広大なもので、タニシ・どじょう 等の水生動植物が生息しまさしく天
然の「ビオトープ池」です。
北面法面で間近に迫る植生群
東面と南面に迫る山林もほどよく間伐され、強い日差しと強風 を遮り
山林を介した自然風が住居の中を通り抜けます。南面の なだらかな丘
稜面は、伊那谷の「お蚕様」を育てる桑畑の跡地 がゆったりと広がっ
ています。進入路から玄関迄は徒歩4分程 の間合いがあり、西面入り
の一日を通して明るい建物の表情を ながめながらの、ゆったとしたア
クセス風景です。 風土・自然と生活・住居とのマッチングが実に見事
であり、ご く自然体の「住まい」が山深き山間地に存在しています。
「蓮池」越にみる蘇った「再生民家」
土地柄を素直に読みとった先人の知恵、四季の「うつろい」を 楽しむ
ライ・スタイル・・・・・ 時代の流れ・文明化の中で多様な人工環境
を提供する機器手法 が氾濫する中、学ぶべき事の多さに驚きます。地
域に生きる建築士として、あまりにも当たり前な自然と人とのふれあ
いをもう一度見つめ直し、先人の知恵を引き継ぎ、美しい「四季のう
つろい」の中に溶け込む「住まい」を創造していきたいと思 っていま
す。
着工前
120年間、ほとんど手つかずの外観…。
間口11間余りの偉容が、里山の風景に溶け込んでいます。
昔のままのくぐり戸…。ずっと120年間そのまま使われてきました。
(左側写真)玄関前です。ほんとうに手づかずのままです。
出桁により深~い軒の出…。
こうなると住宅ではなく、まるで社務所のようです。
雨戸を開け照明をつけて現況の実測を行います。
これがなかなか大変な作業です。
解体工事
瓦・内外壁を撤去した状態の遠景
外壁を取り払い太い柱等が見えてきました。
柱の立ちを調節するため、筋違い等を入れています。
軒が低くて横長開口の和風空間です。
新緑の外部と一体化しています。
囲炉裏の上は吹き抜けになっていて、天井
はこんな感じに補強してあります。 先人の
技を見せつけられます。
玄関前の大梁架構状態…。三方差しで、
よくこの様な納めで先人の匠達は創った
ものです。驚き…!
細工の非常に細かい戸袋。当時は大工さん
が作ったみたいです。
こんな物が無造作にゴロゴロ…、 古い物
大好き人間の私にとっては 「あれも これ
もお宝」に見えるのです。
床根太を全て取り払ってしまいました。
土台を入れている最中…。
持ち上げずに土台を入れたところです。
土台巾は18cmもあります。
屋根瓦を撤去し、軽くなった状態で、
柱等の立ち、梁類のレベル調整を行います。
これがなかなか、大変根気のいる仕事です。
ヒバ油を使った「無公害」の白アリ駆除対策を行っています。
木工事
現場にて土台を手加工しています。
(右側写真)この様な返しの付いた加工は、プレカットでは出来ないのだ!
乾燥加工した松丸太を現地にて加工した
ところです。
古材の中に新材が加わり、再生らしくなっ
てまいりました。
座敷に使われていた荒床材…、 防蟻処理を
して再使用します。
この位の角材でないと、筋違いの要をな
しません。
ヒバ油による無公害の防蟻処理を行っています。
木工事(内装)
正面の足場もはずれ、全容がわかってきま
した。新材の桧部分は、生地色で仕上げま
す。
ひろーい玄関正面部…古材も磨きをかけれ
ばまだ 生き生きしています。 塗装をかけ
るのが惜しいような…。
居間の塗装の色合わせをしています。
新・旧材が混在している為、色彩の濃淡を
変えながら の大変繊細な作業です。
飾り棚内の左官の塗り分けが終わった1階両親寝室です。
障子の組子のデザインも変えてあります。
2階西面の広縁廻りです。
再生前の印象は、一部の柱・桁に残るのみとなりました。
日差しも深く、冬期間あったかそうです。
2階寝室です。再生前の間仕切りをそのま
ま使用した、現代住宅には無いひろびろ 空間です。
今となっては貴重な総檜造りの出桁階段です。 刻みにも随分人工がかかります。
(右側写真)刻みが完了した状態です。後は組み付け作業…
階段の全容が見えてきました。骨太の民家
との相性も良さそう。 後は手すりを取り付
ければ… これもなかな か根気のいる作業です。
2階タタミコーナーです。 吊押入は現場
にて追加しました。
木工事が終わった2階階段ホールです。
新材と古材を、どう表現するか悩んでい
ます。
小さな和風のゲストルームを造りました。
正面に吹き抜けにつながる円窓が見えます。
外壁の左官仕上げ工程を残し完了した状態です。
どんな外壁色にするか、じっくり検討させていただきます。